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中国四国地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中国四国地区]

カンムリウミスズメを尋ねて~徳島県南へ行ってきました~

2024年05月20日
高松 湯淺和美

『黒潮のペンギン』カンムリウミスズメ

AR日記をご覧の皆様、こんにちは!
みなさんは、『カンムリウミスズメ』をご存知ですか。
この鳥は、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類指定、世界自然保護連合(IUCN)のレッドリストでもVulnerable(危急種)指定、国の天然記念物にも指定されています。日本と韓国の周辺でのみ生息・繁殖する全長約24cm、ムクドリくらいの小さな海鳥です。
名前のとおり、頭頂部に跳ね上がった冠羽があり、海中を飛ぶように泳いでイワシやアジなどの小さな魚を捕まえます。体色も白と黒で、『黒潮のペンギン』という異名もあるそうです。
冠海雀
カンムリウミスズメ
毎年冬になると、徳島県牟岐町の島々(出羽島の隣の小さな岩礁の島「小津島(こつしま)」や、千年サンゴで有名な牟岐大島(県の鳥獣保護区指定)の隣に位置する「櫂投島(かいなげじま)」などの無人島)に繁殖のため飛来します。
今年も2月下旬、この2つの島を目指して飛来して来ました。潮が来ない岩の下にそのまま、または岩の裂け目や植物の根元の穴などを利用して、通常一度に2個産卵します。
3~4月、夜間にヒナは巣立ち、希に親子で採餌している様子が観察できるとのことで、日本野鳥の会徳島県支部の行う調査に参加させてもらえることになりました。

調査中に出会った生き物たち

4月2日(火)、穏やかに晴れた古牟岐港から、地元でガイドをされている原田さんの船に乗り込んで、調査ポイントへ向かいます。
途中、アマツバメがたくさん飛んでいました。
夏鳥であるアマツバメは、3月下旬頃飛来し、9月下旬頃まで見られるそうです。5月になると、小津島と櫂投島の人が近づくことのできない断崖の岩の割れ目に営巣し、それぞれの島で60羽ほどが繁殖活動を行うそうです。
 
アマ燕
断崖の空に舞うアマツバメ
アマ燕
高速飛行の黒い鎌、別名鎌燕(地方による)
ヒメウの集団も見られました。よく見るウミウ、カワウと違い、全身真っ黒に見えます。
環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類指定の希少な種です。
こちらは冬鳥。11月~5月頃まで岩礁などに見られます。4月頃より北上し、主に北海道以北で繁殖を行います。
この日、希少な冬鳥と夏鳥が重なって観察できる幸運に恵まれました。
姫鵜
ヒメウの集まる岩礁。フンで白いストライプになっている。
姫鵜
全身が黒くつややかなヒメウ(絶滅危惧種)

マリンレジャーの思わぬ影響

途中、たくさんの釣り客も目にしました。
元々天敵がいないはずの無人島で繁殖を行うカンムリウミスズメは、巣材をあまり使わず地面に産卵します。マリンレジャーで上陸する人の船にまぎれてやってきたネズミや、食べ残し・釣り餌などによって引き寄せられたカラスなどが、卵やヒナ、さらには親鳥も襲って食べてしまうそうです。
釣り客
小さな岩礁で釣りを楽しむ人々
カンムリウミスズメの天敵は、カラス(ハシブトガラス、ハシボソガラス)や猛禽類(ハヤブサ、ミサゴ)のほか、ウミネコ、大型魚類、ドブネズミなどが分かっています。
中でもカラス類による被害は最も大きく、カンムリウミスズメの抱卵最盛期(3月中旬~4月中旬)に被害が集中するそうです。カラスの聴力は人の何倍もあるので、夜間に卵から孵ったヒナの餌は巣で与えず、安全な水際まで呼び出し与える、この必死な親子の呼び合う鳴き声は当然、古牟岐港、牟岐港までも聞こえていると思います。
また、釣り糸や針などが放置・遺棄されることで海鳥をはじめ海に暮らす様々な生物に悪影響を与えていることもよく知られています。この希少な鳥たちや豊かな自然を守るために、楽しんだ後はきちんと回収、ゴミを残さず持ち帰って頂けるようにお願いしたいと思います。
元々そこにいる生き物たちのこと、人の行動が影響を与えること、注意喚起や興味を持ってもらうことの大切さ必要性を強く感じました。

採餌ポイントに到着!ついにカンムリウミスズメ登場

採餌ポイントで、3羽一組のカンムリウミスズメを発見!
この時期餌場を往来する総個体数は350羽前後とのことですが、このポイントでの採餌観察例は、野鳥の会の方も初めてだそうです。
午前中の調査はこの出会いで終了しました。
冠海雀
カンムリウミスズメの登場に沸く船上
冠海雀
飛び立つカンムリウミスズメの親子

夕方の調査開始

夕方16時から、ねぐらへ帰るカンムリウミスズメの調査が始まりました。
カンムリウミスズメは繁殖時以外、その一生を海で暮らす鳥です。今年生まれたひな鳥が巣立ったこの時期、夜は海に集まって集団で休みます。船をポイントへ進めていく中、2羽~4羽のまとまりで飛んできます。
カンムリウミスズメは夜まで300m離れた西側の集結域で過ごし、9時頃に抱卵を交代するため小津島、櫂投げ島に近づくそうです。その集団は2~4羽の集まりのようです。
 
冠海雀
カンムリウミスズメの出現に夢中で双眼鏡をのぞく
冠海雀
2~4羽の家族で行動するカンムリウミスズメ
私たちの船のすぐ近くまでやってきました。
冠海雀
ペアは繫殖に失敗したカップルかもしれない
冠海雀
ボートのすぐそばまで接近!
この日の海は朝からずっと凪ぎ状態で、調査する私たちは船酔いの心配が無く、おだやかな海面に漂う鳥たちの姿を観察できました。ただ、晴れた日は集結時刻が遅く日暮れ間際になるため、全員集合にはまだ時間があるようでした。多いときには視界一面、海一面、ウミスズメで覆われるそうです。
冠海雀
穏やかな波間に漂うカンムリウミスズメの親子
冠海雀
美しい夕暮れの海
美しい風景を背景に、希少な鳥たちの営みの一部を見せて頂けたことに感動と感謝をして船を下りました。
その後の野鳥の会徳島県支部長三宅さんから届いたカンムリウミスズメ以外の繁殖鳥種調査の結果は、アマツバメ、クロサギ、ウチヤマセンニュウ、ハシブトガラスなどとのことでした。
本当に豊かな海なのだと改めて教えていただきました。
最後に、ガイドでたくさんの話を聞かせてくださった原田さんのおはなし。
島々の歴史や文化にも精通し、この土地の魅力を多方面から紹介してくれました。
小さい頃からこの海を船で渡って登校していたという原田さんにとって、カンムリウミスズメは身近な存在で、数十年の間に数を減らしていることを肌で感じているそうです。
研究者の方々を案内し、鳥たちの営みを見守っていく中で、カンムリウミスズメの魅力にすっかりはまってしまったという原田さん。今では研究者顔負けの知識と愛を持たれていて、よどみなく繰り出される話は広く深く面白く、私はカンムリウミスズメと同じくらい原田さんに出会えたことが宝だと感じました。
原田さん
巧みに船を操る原田さん
原田さん
きらきらと目を輝かせてカンムリウミスズメの話をする原田さん