中国四国地方のアイコン

中国四国地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中国四国地区]

秋の気配

2016年08月31日
高松 福田学

石鎚山の夏は、たくさんの花と登山者でにぎわいます。しかし、お盆を過ぎると少しだけ静かになります。花は変わらず咲き乱れていますが、結実するものも目立ってきます。そして、秋を告げる花たちが咲き始めるのも、この頃なのです。山をゆっくりと味わうなら、この時期がいいかもしれませんね。今回は、石鎚山に自生する端境期の植物たちを紹介します。

823日、土小屋登山口。天候は霧です。風景はまったく見えませんが、そのぶん足元に咲く花たちに集中できます。登山口はすでに標高1500m、そこはブナの領域、冷温帯夏緑樹林です。

      左上:イシヅチミズキ、濃紺の実と赤い果柄が美しい 

      右上:いち早く色づく、ツタウルシ

      左下:タカネオトギリの葉に水滴 

      右下:ブナの極相林



      ササユリの実と葉、花を落とすとササに紛れてわからなくなります



登山道は、アキノキリンソウが花盛りです。タカネオトギリは花も多いですが、真っ赤な実をつけているものも目立ちます。花をじっくり観察していると、きらめく朝露や小さな昆虫にも目が行きます。

      左上:満開のアキノキリンソウ 

      右上:ツツゾウムシ

      左下:ドロノキハムシ 

      右下:キンモンガはアゲハモドキガ科に属する、昼行性の蝶のような蛾です



東稜基部の休憩所から植生は、少しずつ変化していきます。東稜基部は、石鎚北壁を形作る岩稜の東端です。登山道は北壁の裾を横切るようにつけられており、いくつかのルンゼ(岩壁に刻まれた谷や溝などのこと)を通過します。

      左上:リンドウ、日当たりのよい登山道脇でよく観察されます 

      右上:ツルニンジン、ニンジンのように根を太くすることからこの名前がつきました

      左下:ミヤマモミジイチゴ、たくさんの実がありました、葉はいつも虫に食われて穴だらけです

      右下:レイジンソウ、キンポウゲ科の可憐な花です、今年は非常に花付きがいいです



ルンゼ周辺では、多種多様な花を観察できます。大きな群生を作るオオマルバノテンニンソウ、そこに混生するミソガワソウやサラシナショウマが、見事な花畑を作ります。登山道脇には、ラズベリーの仲間、キイチゴ属のミヤマモミジイチゴが、つややかな実をぶら下げています。

      左上:ヨメナだろうか?キク科の同定って困りますよね

      右上:モミジガサ、別名シドケ、他のキク科カニコウモリ属と同様に山菜としても有名

      左下:ハガクレツリフネ、葉の下に隠れるように花が付きます

      右下:オオマルバノテンニンソウ、別名トサノミカエリソウ、群生する様は壮観です



ルンゼ直下は花も多く足を止めてじっくり観察したくなりますが、落石も非常に多いので速やかに移動しましょう。植物の観察は、ルンゼ周辺の安全が確保できる場所で行いましょうね。

      左上:トリカブト、毒草といえばこれ、というイメージですが、他にもいっぱいありますよ

      右上:フクオウソウ、花は小さく地味ですが美しい、花が展開すると長い蕊が突き出てきます

      左下:アマニュウと思われます、花を終え、繊細な果柄の先に実を着けています

      右下:ミソガワソウ、石鎚が南限といわれています



鳥居の建つ表参道との合流点には、261120日に開所した石鎚山公衆トイレ休憩所があります。環境省自然環境整備交付金を活用して作られた環境配慮型のトイレで、微生物の働きで汚水を浄化します。トイレットペーパーは、分解できないので分別となっています。冬季にトイレは利用できませんが、休憩所はフルシーズン利用できます。

チップ制で100円を集金箱に投入して利用します。10枚つづりのクーポン券も利用可能で、道の駅天空の郷、土小屋、登山ロープウェイ乗り場、山頂山荘などで販売されています。このトイレの開所に伴い、頂上トイレは携帯トイレブースに変更されました。携帯トイレは、各自で用意してください。使用済みトイレは、持ち帰りましょう。

排泄物による自然界への悪影響を与えないために、マナーを守って利用しましょう!

      左上:真っ赤に染まるタカネオトギリの実

      右上:まだ若いタマガワホトトギスの実

      左下:石鎚山公衆トイレ休憩所

      右下:ミヤマトウヒレン



今回は鎖場を使わずに、巻道を使い山頂を目指しました。この辺りまで来ると黒々としたシラベの領域、亜高山帯となります。ミヤマトウヒレンやオオトウヒレン、ウメバチソウ、ダイモンジソウ、結実したミヤマダイコンソウなどが見え始めると山頂はもう目の前です。

      左上:オオカメノキ、別名ムシカリの名のとおり葉は穴だらけ

      右上:イワアカバナ、二ノ鎖元小屋付近でよく見る

      左下:シオガマギク、かつてはゴマノハグサ科だったが現在はハマウツボ科

      右下:シラヒゲソウ、石鎚山ではウメバチソウではなくシラヒゲソウばかり見る



植物は花ばかりに心を奪われがちですが、残花や結実から知る生活史も面白いですよ。季節の変わり目はそんな植物をたくさん観察できます。また、競合と共生の両方のかかわりを持つ、昆虫や動物まで興味を広げて、好奇心を解き放ってみるのもいいですね。