アクティブ・レンジャー日記 [中国四国地区]
剣山 夏の花
2016年08月15日夏らしい晴天と猛暑が続いていますね。今年度から山の日も施行され、ますます登山人気も高まりそうです。山の日が間近にせまった8月4日に、国指定剣山山系鳥獣保護区や国定公園に指定されている剣山へと巡視のために向かいました。
剣神社への長い階段が、この山の入口です。旅の安全をお祈りしてよく整備された登山道に入ると、ブナやミズナラ、ウラジロモミなどの冷温帯の樹林が、木陰を作り快適に歩けます。森の中には満開になったリョウブの花の香りが、充満しています。
【左上:剣山登山口】
【右上:リョウブの花】
【左下:太鼓岩分岐から見た次郎笈】
【右下:刀掛けの松】
登山リフトの西島駅あたりからは、シコクシラベやダケカンバなどの亜寒帯の樹林になります。足元の黄色い花はタカネオトギリ、トゲアザミの花はすでに冠毛を載せています。シコクフウロやナンゴククガイソウ、ツルギハナウドなども咲き、登山道はとても華やかです。
【左上:コモノギク】
【右上:シコクフウロ】
【左下:ソバナ】
【右下:ツルギハナウド】
刀掛けの松から、キレンゲショウマを見るために行場方面へと向かいます。キレンゲショウマは発見当初はキンポウゲ科で、その後ユキノシタ科となり、現在ではユキノシタ科から分離されたアジサイ科に属しています。ややこしいですね。この辺りは植物の育成に不利な石灰岩地ですが、それを好む植物もいるのです。それがキレンゲショウマやヒメフウロなどの貴重な花なのです。地質や地形からの目線で、植物の棲み分けを観察するのも面白いですよ。
【左上:オタカラコウ】
【右上:カニコウモリ群生】
【左下:ギンバイソウ】
【右下:キレンゲショウマ】
剣山系は2000年あたりから出始めた、シカ食害によって危機的な状況となっています。キレンゲショウマの群生地も、テキサスゲートと防鹿柵で何とか被害をくいとめている状態です。
行場への道は狭く、路肩も脆いので離合に気を使います。また植物の観察や撮影に夢中になり、気づかないうちに登山道を外れると貴重な植物を踏んでしまうかもしれません。大切な自然を保っていくために注意しましょうね。
【右上:ノリウツギ】
【左下:ナンゴククガイソウ】
【右下:アキノキリンソウ】
せっかく行場まで来たので、一ノ森まで足を延ばしてみました。両剣神社そばの崩壊地は通行できるようになってはいますが、暫定的な整備なので降雨のある時や降雨の後は通行をひかえた方がいいかもしれません。
うっそうとした森を抜けると笹原が広がります。この笹はミヤマクマザサといい剣山系の代名詞となっています。その先にある笹の丘が一ノ森です。その時、ぴぃぃぃっ!という甲高い音が聞こえました。シカの警戒音です。周りを観察すると登山道わきのミヤマクマザサにはシカの食痕がいくつもあります。またダケカンバにも真新しい剥皮の痕がありました。そして一ノ森北斜面のダケカンバは冬枯れのような姿でした。
【右上:ダケカンバへのシカの剥皮】
【左下:冬枯れのようになったダケカンバ】
【右下:笹原にシカ道、縦横無尽】
シカの食害は日本中で深刻な問題となっています。どうしても防除ばかりに意識が持って行かれがちですが、なぜこの状況になってしまったのかを考えることも大切ですね。そんなことを考えながら歩いていると、小さな雨粒が落ちてきました。予想より早く夕立が来そうなので、少しペースを上げて剣山を目指します。
剣山の山頂はすっかり雲に覆われてしまいましたが、多くの人で賑わっていました。頂上ヒュッテ隣の宝蔵石神社は、輪くぐり神事をやっていました。大剣神社に寄り道をして大急ぎで下山して、車に戻ったところで夕立になりました。
【右上:ホソバシュロソウ】
【左下:モミジコウモリ】
【右下:レイジンソウ】
この時期の山岳では、朝から天気が良く気温が高い場合、夕立になる確率が非常に高くなります。強い日射が原因の熱雷と寒気の流れ込みを原因とする界雷が、起こりやすい場所なのです。逃げ場のない稜線上で雷につかまるのは、とても恐ろしいことです。登山計画は天気予報も考慮しましょうね。またレインウェアなどの装備は必携ですよ。しっかりとした準備で夏山を安全に楽しみましょう。