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中国四国地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中国四国地区]

【自然情報 】植物の不思議分布

2016年06月20日
大山隠岐国立公園 湯澤孝介

梅雨の知らせが隠岐の島にも届いています。

雨が降らない日も、じめじめむしむし。

 

 

さてさて、今回はある植物の紹介です♪

以前大満寺山登山の日記でちらっと紹介しましたが、覚えていますでしょうか...?

 

オオイワカガミ

そう、【オオイワカガミ】です。

イワカガミの変種で、葉が大振りなのが特徴です。

イワカガミよりもやや尖った鋸歯(キョシ:葉の周りのギザギザ)が多くみられるとも言われています。

(写真だけだとイワカガミにも見えますかね^^;)

  

この植物、東北地方、中部地方の日本海側の特に山地の岩場に広く分布しており、

積雪地でも生育することが知られています。

 

そんなオオイワカガミ、隠岐ではなんと海岸線、海抜1~2mの場所にも生育しているのです!

 

低山地で見られることもありますが、海の目の前(字のごとく)は驚きました...。

なんとも不思議な分布をしてますね。スゴイナ隠岐!

 

現在の見解では、

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○気候要因

最終氷河期に、気温低下に伴い陸続きであった本土から逃げ込んできた。

○地形・地質要因

隠岐(島後)を形成するアルカリ流紋岩に特有の痩せ地で、乾燥傾向にあること。

斜面方位や斜度により気温、地温が抑制されている。

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などの要因から、亜高山性のオオイワカガミが海岸線で生育できているのではないかと考えられています。

 

加えて地質要因の点からは、岩盤が地表に露出していること(露頭)が土壌の発達を妨げるなど、亜高山性の植物が適応している条件に近いために生き残っているのではないか、裏を返すと、他の植物の侵入や競争が起こりにくい条件になっているのではないか、とも言われています。

 

隠岐では、オオイワカガミの他にも、海岸線にミズナラ(山地帯/冷温帯)やネズコ〔クロベ〕(亜高山帯/冷温帯)、イタヤカエデ(山地帯/冷温帯)が見られるなど、

これまでの地史、気候、海流といったさまざまな要因が重なることにより、特異的な植物の分布が示されています。

 

いやいや実におもしろいですね!

身近にある植物も、もしかしたら特異的かもしれないですヨッ(笑)

そんなオオイワカガミの紹介でした。  

  

 

『 ☆ おまけコーナー ☆ "生きもの"の名前 』

今回登場した【オオイワカガミ】は【イワカガミ】の変種です。

和名(日本名)の由来は、

岩場に生える、葉がテカテカで光沢がある鏡のような・・・なんてところからきているそうです。

 

【イワカガミ】の学名は【Schizocodon(属名) soldanelloides(種小名)】で、

属名は、scizein(裂ける)と kodon(鐘)を足し、Schizocodon(イワカガミ属)になります。

鐘形の花冠(カカン:花びらの集まり)は縁が細かく切れ込んでいるという意味ですね。


種小名は、 Soldanellaイワカガミダマシ属)+ oides(~のような)で、Soldanelloides

とあり、イワカガミダマシ(ヨーロッパ原産)に似ているやつ!という名前になっています。

 

イワカガミダマシは英名で、【Alpine snowbell】とされるように、ヨーロッパアルプスの高山に生えるサクラソウ科の植物です。

  

生育地はやはり似るのですね。

(それにしたら余計隠岐の分布って・・・)

 

ちなみに、オオイワカガミには、var.magnus がさらにくっつきます。

Var. → 変種

Magnus → 大きい

という意味です。

 

植物に限らず、生きものには全世界共通の【学名】がつけられています。

例えば、最近野生復帰で注目されている「トキ」の学名は、Nipponia nipponであり、19世紀まで東アジアで広く分布したトキが、日本を象徴する鳥であったことに由来するとされています。

【にっぽにあ にっぽん】 が世界共通なんてすごいですね~。

 

いやはや...興味が尽きません!

身近な自然はたくさんの情報を持っているんですね!

おもしろい!