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中国四国地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中国四国地区]

全国ガンカモ一斉調査

2014年01月23日
松江
午前6時半をまわりましたが辺りはまだ真っ暗です。
あいにく雨が降り始めてきました。
車から出ると暗闇から「コォー、コォー」と聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきました。コハクチョウたちでしょう。
私達は宍道湖に注ぐ斐伊川河口の土手にいて夜明けを待っています。

【獣に襲われる心配のない河口の浅瀬はコハクチョウたちの絶好のねぐらです。】

この日は全国ガンカモ一斉調査に同行させていただきました。
これは年に一度、環境省が各都道府県に依頼して全国一斉におこなう、ガン・カモ・ハクチョウ類の生息数調査です。 
私達が同行させてもらったのは、宍道湖でのマガンの生息数調査です。この調査は水鳥観察施設、宍道湖グリーンパークの職員の方々が担当されました。

宍道湖は西日本で唯一のマガンの大規模飛来地です。
マガンたちは宍道湖をねぐらにして、早朝餌場である西岸の田んぼに飛んできます。それが斐伊川河口付近を通ってくるので、河口の土手で待ちかまえて上空のマガンの数を数えようと言うわけです。

辺りがだんだんと薄明るくなり始めたころ、宍道湖から先発隊が飛んできました。

【美しいV字の編隊を組んでいます】
双眼鏡をのぞきながらカウンターでカチカチとカウントしていきます。
数十羽単位の群が一群また一群と飛んできます。
レンズについた雨粒を拭きながら観測しますが、くもりは取れず視界はよくありません。


群は素直に田んぼに降りてはくれません。上空で他の群とくっついたり分裂したり、あっちに行ったりこっちに行ったり、これらの群を再び数えることのないように注意しないといけません。

飛んでくる数がどんどん増えてきました。二人でカウントしますが、重複して数えないようにチームワークが必要です。
そして最後に沢山の群が一斉にやって来ました。花火大会最後のスターマインが打ち上げられたかのようです。

【オオー、群が一斉にやってくるぞー!(クリックして拡大してみてください)】


【それぞれにぐるぐると飛び回り、宍道湖西岸上空はにぎやかになりました。(クリックして拡大してみてください)】

しばらくしてマガンたちは餌場を定め田んぼに降り立ち、巨大な群となりました。この群をもう一度カウントし直します。数台の車でそれぞれの方向から数えます。ところがそのカウント結果の数が合わなかったようです。遠くからの観測ですし、田んぼにはあぜなど案外死角があり、カウントしにくいものです。
その間マガンたちは少しずつ新しい餌場に移り始めたので、群全体が完全に新しい餌場に移動するのを待って、改めてカウントし直すことになりました。

このように苦労して調査された結果、三千羽を越えるマガンが数えられました。
また島根県全体の調査結果の集計が出され新聞にも記事が載りましたが、宍道湖でのガン・カモ・ハクチョウ類の合計は5万羽を越えました。
コレは山陰両県の観測地点の中でもダントツの数字でした。

※全国の調査結果は今後公表されるでしょう。
昨年度までの調査結果は、インターネットで下記URLにて御覧になる事が出来ます。
 http://www.biodic.go.jp/gankamo/seikabutu/index.html

皆さんの家の周りにはこれらの渡り鳥が見られますか。渡り鳥が生活できる環境が開発などにより減り、宍道湖など限られた場所に集中するようになったと聞きます。
鳥たちが集中すると心配されることがあります。密集するぶん、鳥インフルエンザなどの病気が感染しやすくなる事です。
鳥インフルエンザは数年前、日本各地で養鶏が死亡し大きな被害をもたらしました。日本の周辺では度々発生していて、いつ日本で再燃してもおかしくはないでしょう。

鳥たちが見られる場所が減ったように、私達の周りの“どうってことのない”湿地や河原は整備され、身近な自然は消えていきました。
私達は災害をもたらし非効率な自然は、人間の手でコントロールすべきだと思っていましたし、そもそもそのような自然には関心がありませんでした。
私達は自然を改変することにより住みやすい環境を作り上げてきました。ですがそれらは必要かつ掛け替えのない環境であったことにも気づき始めてきました。
しかし一度なくなしてしまった自然環境は、取り戻すことがとても難しい事のようです。