フサヒゲルリカミキリの再導入試験を実施しています
フサヒゲルリカミキリの再導入試験を実施しています。
※再導入とは、過去にその種が生息・生育していた地域にその種を再び定着させることを指します。
背景
フサヒゲルリカミキリ(以下「本種」という)は、国内の生息地がごく限られた地域に減少したことを受け、平成30年より、伊丹市昆虫館及び足立区生物園において生息域外保全が進められてきました。その取組によって本種の飼育技術が確立され、飼育下繁殖に成功しています。
本種の絶滅を回避するためには、残存する生息地の個体群を維持するとともに、再導入した個体群が定着するために必要な条件を明らかにしつつ、かつての生息地を再び本種が生息できるような環境にしていくことが必要です。そこで、過去に本種が生息していた地域の中で、本種の生息環境である草原環境と、食草(餌)であるユウスゲの生育が存続している鳥取県西伯郡伯耆町にある桝水高原を試験地として、飼育下繁殖個体を用いて、再導入試験を実施しました。
なお、再導入試験は、中国山地草原性希少昆虫保護増殖事業検討会(事務局:中国四国地方環境事務所野生生物課)において試験内容を諮った上で、伯耆町役場をはじめとする地元関係者の協力も得て実施しました。
再導入試験概要
1.ユウスゲの分布調査及び草刈り
令和6年5月に日本チョウ類保全協会が桝水高原のユウスゲの分布調査を実施したところ、約2,000株が確認されました。一方、背の高い草本のススキも生育しており、夏季にその丈が高くなることでユウスゲを覆い、十分な株数が維持できなくなることと、放虫後のモニタリングが困難になることが考えられたことから、同年6月に関係者と方法を調整の上、ススキの草刈りを実施しました。
2.放虫の実施
試験地内に複数の調査区を設け、令和6年6月18日に、伊丹市昆虫館と足立区生物園での生息域外保全の取組により得られた飼育下の繁殖個体である成虫102個体(メス51個体、オス51個体)を放虫しました。
3.モニタリング
放虫後、約1週間おきにモニタリングを2回実施しました(1回目6月26日、2回目7月3日)。調査では、試験地内に放虫した個体が生存しているか、放虫した個体がどの調査区で確認されるか、産卵しているかを確認しました。
モニタリングの結果概要
1回目のモニタリングでは、17個体(メス5個体、オス12個体)が確認され、食痕(本種がユウスゲを食べた跡)72箇所と産卵痕(本種が産卵した跡)32箇所が確認されました。2回目のモニタリングでは、14個体(メス4個体、オス10個体)が確認され、食痕86箇所と産卵痕86箇所(1回目と重複カウント含む)が確認されました。
今回放虫した個体の多くは、死亡したか試験地外に分散したものと考えられますが、放虫した地点と個体、食痕、産卵痕が確認された地点等を踏まえると、残存した個体は食草を探して草原内を盛んに移動することはなく、特定の条件が揃う場所にとどまる傾向が確認されました。また、ススキ等の草丈の高い場所では、食草のユウスゲが覆われ、ほとんど利用されていませんでした。
今後の取組について
今回の結果を踏まえ、来年度も桝水高原において、同様の再導入試験を実施し、本種の定着のための条件を精査していく予定です。
(参考)フサヒゲルリカミキリ(Agapanthia japonica)について
カミキリムシ科の日本固有種。体長は15~17mmで、触角の第1、2節端がフサ状になっている。成虫、幼虫ともにユウスゲ(Hemerocallis citrina var.vespertina)を食草とし、ユウスゲの花茎等に産卵する。幼虫はユウスゲの内部で越冬する。生息地である草地の減少、植生の変化、愛好家による採取圧、シカによる食草の採食圧等によって存続が脅かされている。
▷ 環境省レッドリスト2020:絶滅危惧IA類(CR)
※本種は、種の保存法に基づいて、許可なく捕獲等することは禁止されています。
内容に関する問合せ先
環境省 中国四国地方環境事務所
担当:野生生物課 岩本 千鶴
山田 瑞希
電話:086-223-1561