第13回気候変動適応中国四国広域協議会 議事概要
第13回気候変動適応中国四国広域協議会
場所:Webex によるオンライン開催
開会
第1部
1 環境省気候変動科学・適応室からの情報提供(資料1)
【質疑応答】
特になし
2 広域アクションプランの実施・展開状況等について
(1)公開報告会「石鎚山系におけるシカの進出と被害状況」の概要(資料2-1)
(2)四国太平洋沿岸域の海洋生態系の変化への適応・広域アクションプランの実施・展開状況等について(資料2-2)
(3)普及啓発について(資料2-3)
【質疑応答・コメント】
○高知県 自然共生課
シカの問題など、石川先生や目﨑氏と相談しながら取組を進めているところである。今後、どのように変わっていくのかについて注意深く見ていきたい。また、高知県のサンゴネットワークの会員が増えていくよう、取組を進めていきたいと考えている。皆様にも協力していただき、より良いものになればと思う。本日は様々なことを聞かせていただき今後に繋げていきたい。
○岡山県 脱炭素社会推進課
今回、岡山県での開催とのことで、会場候補と玉野市の担当者を中国四国地方環境事務所と事務局(一成)へ紹介させていただいた。今後のセミナーにおいて、よりターゲットを絞ったり、地元の団体に絞るという提案は、良いのではないかと思った。また、今回のセミナーでは多くの高校生が参加されており、よかったと思う。
3 広域アクションプランフォローアップについて(資料3)
【質疑応答・コメント】
○藤木アドバイザー(兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センター)
「山地・森林等の植生及びニホンジカ等の生態系における気候変動影響への適応広域アクションプラン」についてコメントさせていただく。
11月18日に大山蒜山地域の情報交換会があり私も参加した。そこで関係者と課題が共有できて非常によかったと思う。その中に民間事業団体も参加しており、質疑の際に大山山頂に荷揚げをしている団体の方から「自分達もデータ取り等に協力できることはないか」といった申し出があり、非常にありがたいと思った。そういった方々の協力が得られる体制を築いていく必要があると感じた。また、会議後に蒜山自然再生協議会の方々からも「蒜山地域におけるシカの分布状況や被害状況のデータ収集に協力をしていきたい」と言っていただいた。これらの方々を巻き込んで情報収集していける仕組みを今後検討していく必要があると思った。鳥取大学から参加していた学生は、国立公園内でライトセンサスを行っているとのことで、捕獲戦略に役立ちそうなデータを持っているようであった。そのため、そういった学生にも今後参画していただき、持っている情報を共有していけば、より状況が分かってくると思った。
○愛媛県 自然保護課
石川先生の発表は勉強している自分にとって大変参考になる情報であった。発表にあった公開報告会に私も現地参加させていただいていたが、衛星画像を用いたシカの食害調査に関する疑問が2つある。
1つは、実際にグーグルアースを見てやってみたが、ポツポツと穴が空いたところはシカ食害なのか。虫枯れの可能性もあると思ったが、シカの食害だとする確認はどのようにすればよいか。
2つめは、高知県側ではシカ道の密度がどの位の範囲にどの程度あれば実際に調査に行くのか。また、被害度が激甚だ、といった判断根拠として衛生画像が使用されているのか。
以上2点、石川先生に教えていただければありがたい。
○石川アドバイザー(国立大学法人高知大学 名誉教授)
1つ目の質問について、スポット状、パッチ状に枯れている所は、ほとんどの場合、シカがぬた場として利用しているような場所で、そこから、放射状にシカ道が伸びていることが多い。そのようには見て取れない場所もあるが、シカ道の分布状況からほとんどがシカの影響だと判断している。
2つ目の質問について、シカ道の密度がこの程度なら現地調査に行く、というような基準は特に無く、観察や現地調査のシステマティックな調査計画は立てていない。研究者として、あるいはボランタリーに動いている人達がほとんどであるため、調査のスケジュールや体制は構築されていない状況である。
○愛媛県 自然保護課
今後、愛媛県でも衛生画像を活用した調査を進めていきたいと思っている。石川先生とは今後も適宜情報共有をし、一緒にシカ食害の対策に取り組んでいきたい。引き続きよろしくお願いしたい。
4 分科会の取組について
(1)気候変動影響把握・情報活用分科会の取組について(報告)(資料4-1)
【質疑応答】
○大阪管区気象台
オープンデータカタログに気象台データを使用していただきありがたい。このデータで注意していただきたいことは、観測データではなく、あくまでも解析データであることである。これはオープンデータカタログサイトにも明記していただきたい。
気象衛星やブイなど多くの観測機器を使って得られる観測データはごく一部の領域の情報であるため、それらを面的に内挿するなどして領域全体の計算を行ったものが解析データであり、観測で得られたデータそのものではない。そのため、観測データと値を直接比べることはできないので、領域全体の傾向を見ていただくために活用していただきたい。
○事務局(中国四国地方環境事務所)
試行という形で今年度実施したため、今後のことを考える中でデータの使い分け、注意事項に留意していきたい。
今回は水産業に資する取組を目指して進めているため、水産技術研究所からもアドバイスをお願いしたい。
○水産研究・教育機構 水産技術研究所 沿岸生態システム部
水産部局はあくまで水産のために取ったデータであるという位置づけがあるため、今回のような取組にデータを出すことが県にとって必要なのかを確認する必要がある。そのため、環境省の施策としての必要性が示されなければデータは出せないだろう、ということは、事務局には会議等でお伝えしている。また、県の持っているデータは研究面では非常に有用であるが、一方で、一般市民にとっては地先の環境省が所有する公共用水域のデータの方が分かりやすいと思われる。そのため、どこに向けたデータ公開なのか、出口をしっかり決めていただきたいということも事務局に重ねてお伝えている。引き続きお願いしたい。
○事務局(中国四国地方環境事務所)
おっしゃるとおり、今年度の実施ではデータに様々な課題があったため、オープンデータにしてみたいという意向をお持ちのところから取り組んでいき、出口が明確になってくればそのあたりを今年度もう少し整理していければと考えている。
では、海の関係ということから、目﨑アドバイザー、西嶋アドバイザーに、この分科会の報告についてアドバイスをお願いしたい。
○目﨑アドバイザー(公益財団法人黒潮生物研究所)
我々がモニタリングする中でも、水温のデータは様々な生態系に影響を与えるものとして非常に重要になってくる。そういった意味では、一般の方も利用できる形で公開されるのは非常に良いことだと思う。
○西嶋アドバイザー(国立大学法人広島大学/環境安全センター)
水温データ等々の広域での一元化やオープンデータ化について、当初この話が出た時にはもちろん反対があったわけではなく、ぜひその方向でということだった。しかし、掘り下げて具体的に動き出すと、乗り越えなければならない様々な壁があった。例えば、先ほどの話にもあったが、それぞれのデータはそれぞれの目的で取られており、一つの県で取られているデータを、他の場所にもオープンにしていくことにはそれなりに壁があったと、取り組む中で感じた。それだけではなく、データのフォーマットを合わせ、一元化していくためには様々な手続きの手間もあった。そういった手間をかけながら、また、様々な壁を乗り越えながらも、やはり一元化をしていくためには、一般論として、基本的な水温や気温といった気候変動のデータをオープンデータにしていくだけでは辛いものがあると実感している。
そういった意味でやはり出口が重要で、活用されていく方策を考えなければならない。データは取るだけではなく、使うからこそデータが活きる。さらに言えば、特に、水温のモニタリングは増える方向にはなかなかいかず、測定点が減ることが過去にも起こっており、その一つの原因は活用が十分ではなかったということだったりもする。そのため、このデータを誰にどのように活用してもらうかという議論を並行して進めていくことがとても大切である。また、活用してもらうために、どのようなデータの見せ方をするのかといったアウトプットイメージも大切ではないかということが議論の中で出てきた。
来年度もそのあたりを総合的に取り組むことができればと考えている。
○事務局(中国四国地方環境事務所)
これまでの分科会の内容については、この質疑を踏まえて了承いただいたものとする。
(2)試行事例の紹介
ア 宍道湖・中海水温記録情報のオープンデータ化及び見える化の試行(資料4-2ア)
イ 現在水温の市民モニタリング及びオープンデータカタログサイトとの連携試行(資料4-2イ)
ウ スマホを活用した魚種情報の市民モニタリング及びオープンデータカタログサイトとの連携試行(資料4-2ウ)
【質疑応答】
○山口県気候変動適応センター
各事例の発表について大変興味深く聞かせていただいた。
松田先生のシステムと、山口県気候変動適応センターで実施している「これって気候変動?みんなで調査」の連携については、現在、なかなか進めることができていないところである。業務に手が回らないのが実情だが、今後進めていけるよう体制を整えていきたいと考えている。
松田先生の中で今後、どのように呼び掛けていけば投稿が増えるのかといった展望があればぜひ教えていただきたい。
○松田講師(岡山大学)
ぜひ山口県のシステムと連携させていただきたいと考えている。
ご質問のアイデアとしては、先ほどもお話ししたが、個人レベルで見ると大きなテーマは関心が高くなければ行動に移しにくいというところがある。一つの投稿が即時的に気候変動に対して良い影響を与えるわけではないため、イメージがつきにくい。そのため、近い距離に個人の目標やモチベーションを設定できるような、もっと上手い仕組みが必要だと思う。例えば、釣り人や漁師が釣果や仕事の成果を振り返ることに活用できるフィードバックが即時的に得られる、それは他のSNSでは得られない、といったところを作り込んでいくことが必要だと考えている。山口県のシステムは魚に限らないと思うので難しいかもしれないが、テーマごとに何かしら同様の仕組みでできることがあればやってあげる必要があると思う。
また、認知コストや信頼コストについては、「分からないから使おうと思わない」といったことがどのシステムでもまず大きな障壁となる。「そもそも使い方が分からないから使わない」ということがあるため、ワークショップやハンズオンのイベント等、実際にみんなで使ってみる機会を作ってあげる必要がある。過去には、スタートアップでとりあえず触ることができるようにし、手取り足取り自分達で投稿してもらった後に、イベント期間へ突入すると上手くいった事例が何件かある。こういったことを山口県と一緒にできると良いのではないかと考えている。
○岡山県地球温暖化防止活動推進センター
レポっとについて、実際に釣りをする何名かの方に直接協力していただくような形で、展開をどのようにしていくかを検討できるのではないかと思った。投稿の動機付けについては、これまでも何回か議論に出ていたが、そこはやはり課題だと思う。
また、水温データをどのように取るのかについては、釣りをする方はデータに興味を持っている方も多いと思うため、モニターとして協力していただく人を探してみることは可能かと思う。
温暖化防止センターとしてデータをどのように出すかという点については様々な工夫の仕方があり、データの加工については一般の方からの情報やニーズを私達が聞きながら展開していく必要があると思った。
○事務局(中国四国地方環境事務所)
本日の「分科会の取組について」及び「試行事例の紹介」の内容については、3月18日、19日に開催の気候変動適応全国大会でも報告させていただく予定である。
[アドバイザーからの総括コメント]
○石川アドバイザー(国立大学法人高知大学 名誉教授)
先ほど報告したが、社会実装が非常に急がれるという段階に入ったと実感している。
私が最後の発表で申し上げた、長野県小諸市が「鳥獣被害対策実施隊」を拡充して立ち上げた「野生鳥獣対策実施隊」のように、行政がイニシアティブをとるような組織づくりを急ぎたいと思っている。管理捕獲において、効率的に捕獲するためには、猟友会のボランタリーに依存している段階から、行政がイニシアティブと責任を持つ段階に進まなければダメだと分かってきたため、そういった社会実装に向けて進めていきたいと考えている。
後半で、データの共有や公開の様々な方法が進んでいることは心強く感じた。愛媛大学でシカの情報収集のシステムを作っており、愛媛県ではデータの収集が効率的に進みつつある。これを高知県側でもしっかりフォローしていけるような体制を急いで作りたい。ただ、データの品質を保つために現場で研修を受けるといった労力のかかるワンステップが入り込んでいるため、一般の方に広くデータ収集の協力をしていただく体制をすぐに取ることは難しい。その辺りをクリアしながら進めていきたい。
私の専門の部分のみの感想だが以上である。
○西嶋アドバイザー(国立大学法人広島大学/環境安全センター)
3つの広域アクションプランの中で、私は3番目の「瀬戸内海及び日本海の漁業等、地域産業における気候変動影響への適応広域アクションプラン」を中心に関わっており、特に水温を中心にしたデータ共有に取り組んできている。これは基礎として非常に大切だがこれだけでは難しいという実感がある。
他の2つのアクションプランでは、ニホンジカやサンゴという関心が高い生き物をターゲットとしており、気候変動という水温・気温の変化が結果として、生物の生息域、食害など、様々なものに影響を与えている、といった「結果」をある程度注視しながら「原因」を見ている。これは、3番目の「瀬戸内海及び日本海の漁業等、地域産業における気候変動影響への適応広域アクションプラン」においても大事な視点だと感じた。
松田先生から「レポっと」の話があったが、現在、瀬戸内海・日本海では、様々な魚がどのように分布しているのかを、網羅的に、ある意味絞り込みをせず見ている状況である。もう少し関心の高い生き物からのアプローチも大切なのではないかと全体の話から感じた。
○藤木アドバイザー(兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センター)
情報活用分科会の取組が非常に進んでいることを伺い、非常に参考になった。現在、活用しているシステムは、山林とシカに関する広域アクションプランにも活用できるのではないかと思ったため、そういった技術の活用も今後、ぜひ検討していただきたい。
私も石川先生と同じ意見で、もし、山林とシカの取組にこのシステムを活用するのであれば、不特定多数の人からデータを集めるよりも、シカの被害に関係している人を対象に、データ収集の研修会などをした上でデータを収集する形が望ましいと思う。そういったことも含めて今後検討していただきたい。
○目﨑アドバイザー(公益財団法人黒潮生物研究所)
私は太平洋の沿岸生態系分科会のアドバイザーをしていたため、その話を中心にさせていただく。
今年も様々な場所をモニタリングしていて、気候変動による沿岸生態系へのインパクトが非常にあると感じた。のんびりしていれば今年度のようなインパクトがあった場合、知らず知らずのうちに生態系への変化が起こってしまう。やはり、こういったモニタリングの体制をもっと早く広域で連携できる体制を作らなければと改めて感じている。
今年、神奈川県の真鶴で潜る機会があり、サンゴが非常に豊富な状況を見たが、その状況は25年前の高知県土佐湾の奥の海を見ているようだった。こういった生態系の変化が、神奈川県や、静岡県の伊豆の西側で起こっている。
気候変動の速度が、実際の温度だけでなく生き物への応答も年々早まっている印象であり、これに適応していくのは並大抵なことではない。モニタリング情報は集められているが、この情報を実際に適応に活かしていくための様々なアイデアをまだまだ出していき、情報を活用していくことが大事だと思う。今回も様々な試行事例があった中で、適応に繋がるものがあれば活用していく方が良いと思った。
○事務局(中国四国地方環境事務所)
いただいた意見は今後の取りまとめに反映する。本日の協議内容を踏まえて気候変動適応地域づくり推進事業を進めていくため、引き続きお願いしたい。
■情報提供
「日本の気候変動2025」について(大阪管区気象台:参考資料)
閉会