アクティブ・レンジャー中国四国地区

続・野生動物の痕跡を見つけよう!(ツキノワグマ生息状況調査活動報告)【国指定剣山山系鳥獣保護区】

2022年09月27日
高松 湯淺和美
AR日記をご覧の皆様、こんにちは!

前回は、駆除対象となっているシカについてのお話でしたが、今回は保全対象となっているツキノワグマについてのお話です。
最近、徳島県や高知県での目撃情報が新聞に大きく掲載され、皆様の関心も高まりつつあると感じています。

前回前々回とご紹介した動画では、絶滅の危機に瀕した四国のツキノワグマの保全対策についてもお伝えしています。

絶滅の危機に瀕している四国のツキノワグマですが、なぜ保全対策をしているのか、ご存知でしょうか。




ツキノワグマは、食べた木の実の種を糞と一緒に広範囲に蒔くなど、豊かな森を形成する上で大切な役割(種子散布者)を果たしています。
森は、私たちの生活に大きく影響しています。森に降った雨は土の中に蓄えられ、栄養分が溶け込み、川や海へと流れ込みます。 海では、それらの栄養が海藻や魚類などの栄養となります。もし森がなくなってしまったら、私たちが食べている魚貝も失われるかもしれません。また、洪水や山崩れなどの災害を抑制したり、身近なところでは、人間に癒しを与えてくれたりします。

そのように大切な「森」の頂点に立つツキノワグマ、四国の個体群は、現在、徳島県と高知県の国指定剣山山系鳥獣保護区を中心に限られた地域にわずか20頭前後の生息が確認されるのみとなっています。

環境省では、四国のツキノワグマの調査を行っていますが、四国の野生生物の調査・研究をされている特定非営利活動法人四国自然史科学研究センターでも、剣山系ツキノワグマの調査をされています。

5月19日の四国自然史科学研究センター研究員の安藤さんによる、剣山系ツキノワグマ調査に、高松自然保護官事務所の戸耒(へらい)自然保護官と一緒に同行させてもらいました。

今回の調査は、クマの生息域にセンサーカメラを設置して、個体数や行動範囲を知るためのものです。標高1300m付近に設置された自動撮影カメラのセンサーが動くものを感知して動画撮影します。
 
クマを上手に撮影するためには工夫があります。
まず、横に並んだ2本の木の間120cmくらいの高さに板を渡します。そこに、ワインと蜂蜜を混ぜて作ったおいしそうな香りのする誘引エサを入れた塩ビ管を取り付け、匂いに誘われてやってきたクマが塩ビ管を取ろうと2本足で立ち上がったところを、向かい側から撮影するのです。そうすることで、胸元の三日月型の斑紋を写すことができます。
ツキノワグマの名前の由来となっている胸元の白い三日月は一頭一頭違う形をしているそうです。はっきりと胸元を撮影することで個体識別が可能となり、現在の生息数の把握、それぞれ個体の行動範囲、健康状態や繁殖状況が動画から分かるようになっています。

餌付けにならないように塩ビ管は針金でしっかりと取り付けられており、クマが中身を食べられないようになっています。その足元はカメラ側の足場をわざと不安定にして、クマがカメラに対して背を向けずに正面に向かって立つようにと、細やかな配慮がされていました。
自動撮影カメラ
誘引エサ
誘引エサの設置
今回のデータには残念ながらツキノワグマは写っていませんでしたが、カモシカやキツネなどの、自然な姿がたくさん撮影されていました。
(動画提供:四国自然史科学研究センター)
自動撮影カモシカ
1月のカモシカ
自動撮影カモシカ
3月末のカモシカ
自動撮影キツネ
3月1日雪の中のキツネ
自動撮影キツネ
雪の中のキツネ2
クマの生息を確認する方法は、動画撮影だけではありません。
いくつか、クマの痕跡を教えていただくことができました。
空のドングリ
クマが食べたと思われるドングリ。きれいに中身が食べられています。
クマ剥ぎを受けた杉
こちらはクマ剥ぎ
クマ剥ぎアップ
杉に残された歯形
クマは、スギの樹皮を剥いで、幹との間のうすい層を食べることが知られています。バナナの皮のように樹皮を剥ぎ、むき出しになった幹に下の歯をあててこそげ取るように下から上へ栄養が通る部分を食べるそうです。細い彫刻刀で削ったような跡がその歯の痕です。シカも同じような習性があるのですが、クマはシカより遙かに高いところまで皮を剥ぐので違いがわかるそうです。
現在、四国には剣山山系に20頭ほどのツキノワグマが生息していると考えられています。
温暖な気候のためか、四国のツキノワグマは寿命が長く、今、確認されている最高齢の個体は25歳(ツキノワグマの野生下での寿命は約20歳)です。
子どもを産めるようになるのが4,5歳、1回の子育てに費やす期間は1.5年、一度に生まれる子どもは多くて2頭くらい。コンスタントに2年ごとに産み育てられたとしても、1頭の牝グマが一生で育てられるのは、計算上では8から16頭ということになります。出産は冬眠中に行われますが、そのためには秋にたくさんドングリなどの堅果を食べて栄養を蓄える必要があります。秋の食料事情によって、交尾しても妊娠しないこともあるそうです。また、生まれた子グマの生存率についても不明で、「子グマは観察されるが、なぜ増えないのか(あるいは、増えていることを確認できないのか)」を明らかにすることが、四国の保全研究では求められています。(安藤氏 談)

一度バランスの崩れた生態系を取り戻すのは容易ではありません。
今、ぎりぎり寸前で、みんなでなんとか絶滅を止めようと活動しています。